歴代受賞者

1986年(第2回)日本国際賞受賞者

材料工学分野
アモルファス材料などの新素材技術への材料科学的貢献

 

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デビッド・ターンブル博士(米国)

ハーバード大学教授
(1915-2007)
授賞理由

 ガラスが、人類と共に古くから得られてきたことはご承知のとおりであるが、同じように原子が不規則に並んでいるアモルファス合金や半導体材料が得られるようになってから、まだ四半世紀もたっていない。アモルファスが効率のよい安価な太陽電池、それから現在の変圧器の鉄損等が数分の1に下がってくるというステンレス鋼のような材料、それからステンレス鋼のように腐食しない新しい種類の鋼、非常に強力な材料、容量が桁違いに大きい磁気メモリ、結晶合金と比べて数百倍の活性を示す触媒などとして、多方面にいまインパクトを与えつつあるわけである。これは近来において特筆される材料革命の一つである。

 ターンブル博士らは、どのような合金を溶融状態から急冷した場合、結晶性ではないアモルファス合金が得られやすいかという理論的な予測をした。それは1958年のことである。この実験的な実証は、さらに2年ばかりたちまして1960年、彼の親しい友人であったカリフォルニア工科大学の教授、故ポール・デュエ博士によって、金シリコン合金を用いて初めて実現されたわけである。

 これらの要件は、ターンブル博士の、液体から結晶の核ができる新しい理論や、金属の溶融した小さな粒子が低温まで凝固しないという独特な実験、液中の原子の移動に関する現象を考察して、それの当然の一つの結果として出てきたわけである。現象を深く見つめるフェノメロジストとしての博士の面目躍如たるものが現れている。

 本質的には過冷却状態の融体が凝固時の結晶核の生成とその成長を制御すれば、アモルファスを得ることができる。そのためには急冷速度はなるべく速く、しかも融体の粘性が10のマイナス12乗ポアズという臨界値に達する温度、すなわちガラス化温度と融点との比が大きい場合にはアモルファス化しやすくなる。

 これらの指導原理はターンブル博士によってはじめて理論的に示されたわけである。この考えによると、この二つの比の大きい合金を選べば、急冷しなくても分厚いアモルファス材料が得られるはずで、実際にはパラジウムシリコン系やパラジウムニッケルリン系の合金で実証されて、厚さ1センチに達するようなものが、必ずしも急冷ではなくて徐冷過程でもできている。

 また、ターンブル博士らは、融体の粘性を大きくするような原子の結合状態が、アモルファス化の要因であることを指摘しているわけである。ただ、現実面では工業化の状況の現在の段階はどうかと言うと、先ほど述べたように非常に速い冷却が有利であるので、1秒間に100万度(計算値)の速度で下がるというような条件にして、数十ミクロンのような薄いものを金属融体を急冷してつくっている。

 また、金属ばかりでなくて、真空中で合金を蒸発して、基板の上に付着するような真空蒸着法、あるいはスパッタリングというような方法で気体からもアモルファス合金を得ることができる。シリコンのアモルファスの薄膜が太陽電池として知られていることは、皆さんもよくご承知のことである。

 ターンブル博士は以来今日まで合金ばかりでなく、ポリマー、セラミックス、半導体を含めアモルファス材料ができる条件、その原子の並び方、性質に関する指導原理を次々に展開し、共同研究者と実験的裏付けを行い、アモルファス材料の構造について計り知れない貢献をしてきた。

 通常の材料は多くの結晶の粒が集まったものであるが、それは結晶の界面や転位と呼ばれるような格子欠陥を伝わって原子が異常に速く移動する現象があるが、これもターンブル博士の発見である。この現象を応用して高密度セラミックスの構造が可能になったし、また特定の合金に見られる特殊な原子の移動の仕方を発見して、結晶が成長する機構をいろいろ創案した。これらの発見によって、半導体材料中の不純物の移動の機構が解明され、結晶欠陥のない完全結晶の構造が可能になった。

 ターンブル博士は、まことに材料科学分野の巨星である。そしてごらんになるとおり非常にもの静かな目立たない人柄であるが、ハーバード大学の代表的な学者として多くの尊敬を受け、また長年にわたってフレドリック・サイツ博士らとともに、『Solid State Physics』の編集を今日までずっとしてきて、これはまことにその声望を物語るものと思う。

 委員会は以上のような状態を勘案し、材料としては金属、ポリマー、セラミックス、複合材料、その他、そういう基礎理論というのがあるが、それらのいろいろな候補者の中から慎重に勘案した結果、第2回日本国際賞にふさわしいことと信じてターンブル博士を推賞したしだいである。

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