歴代受賞者

1987年(第3回)日本国際賞受賞者

エレクトロオプティックス分野
人類初のレーザー発振の実現

 

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セオドア・H・メイマン博士(米国)

ヒューズ・リサーチ・ラボラトリーズ元研究主任
メイマン・アソシエーツ社長
1927-2007
授賞理由

 レーザーは光領域、すなわちラジオ波やマイクロ波よりさらに波長の短い電磁波の領域で、波の波長のひろがりが極めて小さく、振動の位相が揃った、規則性の著しく高い電磁波を発生する発振器である。レーザーは応用光学(Applied Optics)の分野にとっては極めて良質な光源として、また、エレクトロニクスの分野には従来の電波の数万倍も高い周波数の電源として大きなインパクトを与え、両者を融合したエレクトロオプティックスという新しい分野が生れる原動力となった。光通信、ホログラフィー、更には民生用光ディスクなどがその代表的なものである。このレーザーの発振に初めて成功されたのがセオドア H・メイマン(Theodore H. Maiman)博士である。1960年5月のことだった。そしてこの業績が特に高く評価される理由は、それが人類初のレーザー発振の実証であったことに加えて、同博士個人の独創的な着想と卓越した洞察力に負う所が極めて大きいことにある。

 メイマン博士は米国コロラド大学を経て、スタンフォード大学物理学科において、のちにノーベル賞受賞に輝いたW. E.ラム(Willis E. Lamb)教授の指導のもとで原子分光学の研究により博士号を受けた。1955年にヒューズ航空機株式会社の研究所(Hughes Research Laboratory)に入社、マイクロ波の研究に従事した。当時は1957年7月から始まる国際地球観測年IGYをめざして宇宙電波天文学や人工衛星による直接宇宙観測計画などが活発に進められていた所謂宇宙開発のあけぼのの時代であった。そしてこのためのマイクロ波帯の低雑音受信機の開発が強く要望されていた。

 当時ルビー結晶を用いたメーザー増幅器が極めて雑音特性がよいことから注目を浴びていた。メイマン博士もこのルビー・メーザー増幅器の研究を開始し、幾多の成果を挙げた。その後、コロンビア大学のC・H・タウンズ(Charles H. Towns)教授らの赤外および光メーザー、すなわち後のレーザーに関する理論的考察などに刺激を受け、メイマン博士の興味はこの方向へと向けられた。そしてマイクロ波低雑音増幅器に用いられていたルビー結晶が同時にレーザー発振にも極めて有望であることを見出した。

 当時レーザー発振を目指していた研究者の多くはルビーの様な三準位系ではレーザー発振に必要な準位間の反転分布を得ることは困難であるとして、ネオン・ヘリウムなど気体材料によるレーザーの実現を目指していた。しかしメイマン博士はこの定説に対して独自の視点から、博士自身の学位論文の主題であったマイクロ波と光の二重共鳴法による実験と独創的な理論考察を行い、クローム・イオン含有量0.05%のピンクルビーが蛍光量子効率ならびに緩和時間の両面から考えて、レーザー発振に極めて有望であると確信した。またこの際ルビー結晶内のクローム・イオンのエネルギー準位については、より我が国の東大物性研究所の菅野博士らの報告がお役に立ったと伺ってこの考察に基いて直径1cm、長さ2cmほどの円柱形ルビー結晶の両端に銀を蒸着してファブリィ・ペロー共振器を製作し、これを螺旋状キセノン・フラッシュランプ内に挿入して、光励起することにより、レーザー発振を実現することに成功した。

 ルビー・レーザーの誕生は、以後のレーザー研究の発展を大幅に加速し、ヘリウム・ネオン・ガスレーザー、炭酸ガス・レーザー、半導体レーザーなど、多種多様のレーザーの実現の契機となった。これらのレーザーの出現は、エレクトロオプティックス、量子エレクトロニクスなどの新しい学問領域の形成をもたらし、物理学、化学、天文学、生物学等の自然科学の諸分野、さらに計測、通信、情報処理等々の産業技術の諸分野で数多くの重要な貢献を続けていることは衆知の通りである。

 メイマン博士が発振に成功したルビー・レーザーそれ自身も可視光の光源で、しかも比較的大出力が得られることなどの特長があるため、非線形光学などの新しい物理光学分野の開拓に大きく関与してきた。また、アポロ宇宙船の飛行士によって月面に置かれた反射鏡にむけてルビー・レーザーのパルスを発射し、これが戻ってくる迄の時間を精密に測定することにより地球上の地点と月面迄の距離を誤差1m以下の精度で決定したことは私共の記憶に新しい所である。同様に人工衛星の反射鏡を用いて、地球上の遠隔の2地点間距離の精密測距にも使用され、天文学、地球物理学、測地学等の分野において貴重な貢献をしている。また核融合などをめざすプラズマの研究においても、ルビー・レーザーを用いた電子温度の測定が最も信頼度の高い標準的な方法となっている。さらに工業技術の分野においてもルビー・レーザーがメイマン博士が開発した初期のものと殆どそのままの型で、ホログラフィー計測、レーザー・レーダ、レーザー加工、高速写真などに現在でも幅広く実用化されている。それほど同博士のレーザー装置が同時に実用的なものであったことは驚く外はない。

 ルビー・レーザーの発明によりメイマン博士の名は米国の「発明家の殿堂」(The National Inventor's Hall of Fame)に加えられている。

 同博士にパスツール、ライト兄弟、フェルミ等と並ぶこの栄誉を存命中に受けた極めて少数の米国人のひとりである。

 人類初のレーザー発振の実現から四分の一世紀が経過した今日、この成果が人類にもたらした貢献の意義はますます大きく、明確なものになっている。この傑出した業績は日本国際賞に真にふさわしいものと信じてメイマン博士を推賞したしだいである。

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