歴代受賞者

2003年(第19回)日本国際賞受賞者

複雑さの科学技術分野
複雑系における普遍的概念の創出--カオスとフラクタル

エール大学数学部数理科学科教授
IBMトーマス・J・ワトソン研究所名誉特別研究員
(1924-2010)
メリーランド大学物理科学研究所数学、物理学教授
1941年生まれ
授賞理由

 我々が目にする世界はきわめて複雑である。現代科学はこれを要素に分解し、その性質を見極めるという還元的な手法を発展させて、大きな成功を収めた。しかし、要素に分解するだけでは理解できず、さらに全体として再構成して捉える必要のある複雑な現象が存在する。現代科学はその本質に対する挑戦を始めた。これが複雑さの科学技術である。

 複雑な幾何学的形に着目してみよう。海岸線、河川の分岐合流、植物、さらに為替レートの変動曲線、その他多くの科学技術分野に複雑な形が現れる。その本質的な特徴を求めていくと、自己相似性に行き着く。自己相似性とは、ある形の図形の一部を拡大しても、また同じような複雑性が現れることを言う。滑らかな境界を持つ図形などはこの性質を持たない。これは複雑な図形に共通の普遍的な性質である。マンデルブロー博士は、複雑性の根源にこの自己相似性を見出し、フラクタルと名づけ、その普遍的な性質を明らかにした。

 一方、時間的に変動する力学的な現象に着目すると、天体の運動、空気や水の流れの乱れ、生物の個体数の変動、心拍の乱れから音声波形にいたるまで、きわめて複雑で予測不能な変動が存在することに気付く。これらの現象の背後には普遍的な非線形の力学構造があることを見出し、これをカオスと名づけたのがヨーク博士である。ヨーク博士はさらにその性質を理論的に明らかにすると共に、一歩進めて、カオス現象を解析し制御するための応用研究にも積極的に取り組み、この分野で指導的な役割を一貫して果たしてきた。

 複雑な現象を扱うのは容易ではなく、多くの研究者がこれに向けて未だに挑戦中である。そのなかで、カオスとフラクタルは、こうした現象の背後に潜む法則を抽象したものであり、特定の研究分野に縛られない普遍的な概念としての地位を確立した。その応用範囲は、科学技術は言うに及ばず、芸術、さらには経済や社会の問題に至るまで広がっている。

 両博士の貢献は、複雑な系に内在するこのような構造が普遍的であることを見出して、これをカオスおよびフラクタルと命名したのみならず、その性質を明らかにしてきたことにある。これは複雑な現象を解明する新しい枠組みを提供するもので、両博士は基礎から応用までを含めてその発展に力を尽くしてきた。この貢献はきわめて大きく、2003年日本国際賞を授賞するにふさわしいものである。

 

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