歴代受賞者

2013年(第29回)日本国際賞受賞者

「生物生産、生命環境」分野
深海生物の生態と多様性の研究を通じた海洋環境保全への貢献

 

ニュージャージー州立ラトガース大学 名誉教授
1939年生まれ

授賞理由

 グラッスル博士は、研究が難しい深海生態系を、有人潜水艇などの最新技術を駆使して現場で観察解析する近代的な深海生態学の基礎を築き、海洋において高い生物多様性が創出され維持されている機構の総合的解明に貢献した。

 博士のもっとも特筆すべき研究成果は、化学合成生態系の実態解明である。1970年代に地質学者が、深海に噴き出す熱水の周辺に、未知の多様な生物種からなり周囲の千倍以上のバイオマスをもつ生態系を発見した。この報告を受けて博士は総合的な研究班を組織し、調査の結果、熱水に含まれる硫化水素を酸化して得た化学的エネルギーを用いて有機物を生み出す、硫黄酸化細菌によってこの生態系が支えられていることを明らかにした。その後類似の生態系は世界各地で発見され、海洋では光合成にまったく依存しない生態系が光合成生態系とともに重要な構成要素になっているという新たな海洋生態系の概念が確立された。

 博士はまた深海の中でも水深2000m前後の漸深海帯で生物多様性が特に高いことを明らかにし、一様に見える深海環境にも多様な環境が微細スケールで存在し、各環境に多様な種が適応したとするパッチモザイク仮説を提唱した。そしてこの仮説を、人工的な海底に生物を着底させる深海現場実験によって検証した。

 この研究は地球規模での深海生物多様性の定量的評価に発展し、博士は環形動物多毛類の総種数が昆虫に匹敵するほど多いと推定した。そしてこの研究をきっかけに、全海洋生物の多様性を明らかにしようとするプロジェクト、海洋生物センサス(CoML)の立ち上げを主導した。CoMLは2010年までに80カ国2700名以上の研究者が参加する巨大プロジェクトに発展し、世界のあらゆる海域で調査を行うとともに、多数の後継プロジェクトを輩出した。博士は従来から環境保全にも熱心で、CoMLの遂行にあたって、信頼できる科学的データが海洋環境保全上の要であるとの信念のもと、研究成果を海洋生物地理情報システム(OBIS)というデータベースで公開することに心血を注いだ。現在OBISはUNESCO・IOCが管理し、海洋生物の保全施策の立案などに世界中で利用されている。

 このように海洋生物多様性研究を推進し、海洋環境を保全するための科学的基礎を地球規模で築いたグラッスル博士は、「生物生産、生命環境」への貢献を称える2013年日本国際賞にふさわしいと考える。

【業績解説文】

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