受賞者

2017年(第33回)Japan Prize受賞者

「生命科学」分野
CRISPR-Casによるゲノム編集機構の解明

マックス・プランク感染生物学研究所(ベルリン)所長
1968年生まれ
カリフォルニア大学バークレー校教授
1964年生まれ
授賞理由

 CRISPR-Casは本来、細菌や古細菌に備わったRNAで媒介される適応免疫のシステムであり、菌が移動性の遺伝物質(ファージやプラスミド)による侵入から自己を防御するために利用されている。一般的な原理としては、特定のゲノムを標的とする固有のスペーサーを含んだ短いCRISPR RNA(crRNA)分子が細胞内に発現しており、その認識部位を含む核酸分子が侵入したときに、crRNAがガイドとなってCasタンパク質が核酸分子を切断し分解に導く。現在までに、6つのタイプのCRISPR-Casシステムが見出されている

 エマニュエル・シャルパンティエ博士は、まず2011年に、化膿連鎖球菌等のII型CRISPR-Casシステムにおいて、crRNA の産生には、前駆体のリピート配列と塩基対を形成して菌のRibonuclease III酵素による切断を可能とする、trans-activating crRNA (tracrRNA)と名付けられた短いRNAが必要であるという一般性の高い機構を見出した。

 翌年、シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士は共同研究により、化膿連鎖球菌等のII型CRISPR-CasシステムのCas9が、tracrRNA 依存的にcrRNA に対合するDNAを正確に切断することを見出した。さらに彼女らは、tracrRNAとcrRNAを一緒にした一本鎖のガイドRNA (sgRNA)を人工的にデザインすれば、ゲノム上の任意の場所を編集できることを示し、これによってCRISPR-Cas9による遺伝子改変技術の基礎的概念を確立した。その後、両博士はCRISPR-Cas9複合体の構造を解明し、2種類の短いガイドRNAとCas9の相互作用の分子機構も明らかにしている。

 sgRNAの標的領域の近傍に特定の塩基配列(protospacer adjacent motif, PAM)が存在するという条件さえ満たせば、植物・動物を問わず、ゲノムを自在に編集できることから、CRISPR-Cas9は広汎な遺伝子操作に利用できる画期的な技術となった。近年、ZFNやTALENなどの人工制限酵素の開発により、標的遺伝子の改変が容易になりつつあったが、CRISPR-Cas9システムは、これらに比べてもはるかに効率の良い遺伝子操作技術である。遺伝子改変マウスの作製や、農作物や家畜の品種改良だけでなく、遺伝子治療などヒトへの応用も可能である。

 以上のように、CRISPR-Cas9のガイドRNAによる標的分解機構の発見者であり、かつ生命科学分野に多大な貢献が期待されるゲノム編集工学技術の発展の礎を築いた功労者であるエマニュエル・シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士は、「生命科学」分野における貢献を称える2017年日本国際賞にふさわしいと考える。

Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

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Japan Prize 30年の歩み

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