ストックホルム国際青年科学セミナー

2008年派遣学生

mani萬井 知康
テキサス大学ダラス校理学部化学学科
 

 私は第33回ストックホルム青年国際科学セミナーに参加しました。南部陽一郎教授、小林誠教授、益川敏英教授らが物理学賞を、下村脩教授が化学賞を共同受賞し、日本が世界の科学界で大きなプレゼンスを持つことを改めて示すことになった年に、日本代表の一人としてこのセミナーに参加できたことを大変誇りに思います。


「研究は単独なものではなく、プロセスである」というMartin Chalfie教授(化学賞共同受賞者)の言葉が示すとおり、現在の科学研究は過去から続く一連の流れのもとに、さまざまな分野が組み合わさり出来上がっています。本年の化学賞が緑色蛍光タンパク質GFPの発見とその開発に大きく貢献した3人に与えられました。このことは、研究における流れの重要性を示す上で、またその流れに加わる私たち若手研究者にとって、大きな価値のあるものだと考えます。GFPは下村教授の、「オワンクラゲはなぜ光るのか」という問いに対する答えの副産物として発見(Discovery)されました。長らく大きな注目を浴びなかったその成果が、約30年後にDouglas Prasher博士(GFPのクローニングに初めて成功)、Chalfie教授、 Roger Y. Tsien教授(化学賞共同受賞者)らがPioneerとなって、GFPを含む蛍光タンパクを利用したバイオイメージングを発展(Development)させたことにより、バイオサイエンス全体を大きく飛躍させることになりました。Hans Jornvall教授(ノーベル生理学・医学賞委員会セクレタリー)がノーベル賞はパラダイムシフトを起こした研究に贈られるのだとおっしゃっていましたが、これら蛍光タンパクに関連した一連の研究がバイオサイエンスにパラダイムシフトを引き起こしたのだと考えています。また、Tsien教授が記念講演で、「蛍光タンパクを利用したバイオイメージングは多くの研究者が貢献して築き上げられており、(受賞した)私たちはそのうちの本当に幸運な3人である」という言葉と共に、共同研究者らを称えられたことに、私は深く感銘致しました。


自然科学3部門の受賞者に共通していたのは、自らの仮説を信じ、一つの問題に取り組む姿勢です。既存のドグマに縛られず、新たな見方を大胆に取入れることが大きな成果に繋がったことも特筆すべきことだと思います。中でも、物理学賞を受賞された小林・益川両博士の話が印象的でした。CP対象性の破れを説明するための条件を調べると、既存の4元クォークモデルでは説明できないことが判明しました。4元クォークモデルにこだわっていたときは見えていなかったものが、そのこだわりを捨てると、6元クォークモデルならうまく説明できることに気づき、両教授が新たな理論を提唱されました。これは、既存のドグマで自らの視野を狭めていては、大きな飛躍となる成果は産まれないということをよく表しています。ここで重要なのは、両教授は既存の理論を十分に精査した上での新たな理論への転換であり、ただ闇雲に既存の理論を否定しているのではないという点だと考えます。また、受賞者は皆、よい指導者、共同研究者との出会いが、彼らの研究をより深めることとなったことを強調されていました。世界的な共同研究が盛んに行われている今、同一研究分野の中でだけでなく、個々の領域を超えたCollaborationが益々、重要性を帯びてきています。そういった時代に、研究を始めた私にとって、受賞者らのこのような研究に対する姿勢を直接学べたことは大変に意義のあることでした。

Pioneer とCollaboration、DiscoveryとDevelopmentという、ともすれば対比させられることもあるこれらの言葉が、ノーベル賞を通してみるとうまく重なり合っているのは、非常に面白いことだと思います。また、小林教授が講演中に、日本が世界の科学界へ、日本独自の貢献を続けているのだと、強調されていたことをとても興味深く感じました。今、米国で研究者への道を歩む私が、日本人として、これからどのように研究に携わっていくべきかを考えるいい契機となりました。最後に、この貴重な経験をする場を与えてくださった国際科学技術財団の方々とセミナーを支えてくださった皆様に、この場を借りて深くお礼を申し上げます。それとともに、この経験を糧に、またあの素晴らしい場にいられるような研究者になるべく、これからも研究に邁進し、科学技術の発展に貢献できるようになりたいと思います。


Japan Prize歴代受賞者による社会貢献

ストックホルム
国際青年科学セミナー

Japan Prize 30年の歩み

page top